暖かく、何か少しだら〜とした国。人々は笑顔で、歩くスピードが日本人より30%スロー。甘ったるい言葉を使い、言葉尻は全てふやけた感じ。絶えず花が咲き乱れ、一年中果物が美味しい。おとうちゃんは働かず、昼間は東屋でゴロゴロ、そしてちびちび酒を飲む。おかあちゃんは市場で商売に精を出す。さてこれはどこの国か?
そう、それはタイ王国。東南アジアのタイランド。僕はこの国にカヌーを持ち込み、海や川をツーリングしてきた。そして8年がたった。
10年前、タイでツーリングを始めようと思ったとき、大きな事件が起こった。ペルーのアマゾン川をゴムボートで下っていた日本人の大学生が行方不明になったのだ。そして、それは検問所で拘束されて、国軍兵士から強盗を働かれ、殺されるという最悪のものだった。
僕はこの事件をきっかけにツーリング計画を大幅に変えた。結果的にツーリングの開始を2年間遅らせ、計画を練り直した。何をやったかというと、タイ語の習得だった。東京のタイ語学校に通い、短期の語学留学を2回した。
カヌー旅をするうえで、自衛の手段として、現地語の習得が必要という判断をしたのだ。命のやり取りをする前に、コミニケーションや交渉術でなんとかなるなら、現地語は必須だ。
そして、タイ語の勉強を始めた。勉強のきっかけは「自衛の手段」を手に入れることだった。ところが勉強を続けると、語学の勉強自体が楽しくなってしまい、学習にはまってしまった。勉強すればするほど自分の語学力が上がる。それが実感できる楽しさ、できることが増える楽しさ。タイ人ペンフレンドができ、実際に会ったり、交際の場がめちゃくちゃ広がった。
ペンフレンドからの手紙とタイ語学習ノート。明日23日から27日までタイを訪れます。このブログの更新もこの間はできないと思います。よろしゅうお願いします。
在日タイ人の友人もできた。連中と日本にあるタイ人専用ディスコに出入りしたり、賭場に見学に行ったり。新宿にはタイ人専用のモグリ医者や床屋まである。お嬢様やスチワーデストとお見合いさせられたりもした。世界がぐっと広がるのだ。
そして、実際カヌー旅をタイのチャオプラヤー川やメコン川で始めた。多くの人と出会い、そして話をした。そこには見たこともない、聞いたこともない世界が広がっていた。時に一緒に笑い、悩んでみたり、おろおろしてみたり。
気負って始めたカヌー旅もフィールドに出るというより、人と話、食べ、寝て、歌ったり、踊ったりと、現地の人との交流自体が楽しく、そして旅の目的になっていった。これが可能になったのはタイ語を習得していたから。タイ語の習得の目的は「自衛」のためから、「交流の手段」に変わったのが面白いところだ。
タイのカヌー旅について、雑誌に紀行文の連載をしたところ、何件か自分もやってみたい、情報が欲しいという問い合わせがあった。ほとんどが僕より若い、学生や青年たちだった。僕が力になれることはたかが知れていたが、できうる限り協力した。
そしていつも僕は最後に決まって3つのアドバイスをした。「正確な地図を手に入れなさい」、これは自分のため。「現地語を習得しなさい」、これは旅を豊かにするため、「記録を残しなさい、メモ程度でもいいから」、これはあなたの後に続く人のために、と。

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