城ヶ島を東側に回りこみ、コンパスを140度に固定した。この靄の向こうに房総、洲崎はあるはずだ。とにかく天気が悪い。視界が効かない。東西南北、いろいろな方向から汽笛が鳴るも、船は見えない。雨も降り始めた。でも、目的地ははっきり見えている。目では見えていないけど、見失う事はない。はっきり分かる。360度前も後ろも霧の中。目的地を見失ってはいけない。それ以上に、自分を見失ってはいけない。これが、挑戦的な遠征の中で、一番大切なことだと、最近気が付いた。
カヌーの楽しさには、分かりやすいものとして、旅の中での出会いや、キャンプのワクワク、水面を行く気持ち良さ、サーフでのスピード感などがあると思う。でも、見えない目的地をイメージして、そこに迫り、霧の中から抜け出す達成感は、これらと全く逆に位置する感覚のような気がする。
カヤックを信じ、地図を信じ、それ以上に自分を信じられること。カヤックは多くのものを与えてくれるし、自分を鍛えてくれると確信する。
本屋で立ち読みした雑誌に、今年の夏、大島から茅ヶ崎まで泳いでしまった人がいると出ていた。早朝に大島を出発、茅ヶ崎には翌朝ついたようだ。こういう人が出てくると頼もしい。そして、次には違うバリエーションで泳ぐ人出てくるんだろうな。
霧から抜け出すと、目の前に洲崎灯台が見えた。何も見えなくなってから4時間がたっていた。
O
ne minute I held the key
Next the walls were closed on me
And I discovered that my castles stand
Upon pillars of salt and pillars of sand
Coldplay

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