その離れの便所の構造は、扉側が正面になる。
つまり、バタバタ風に吹かれて扉が目の前で開閉している。
床は、足場だけに板を渡しただけの、極めて不安定かつ恐ろしげな構造だった。
手を前に伸ばして扉を押さえて用を足しているのもバランスが悪く、放っておいた。
何分もいるわけじゃないんだし・・・。
誰も来ね〜よ!・・・深夜の二時に・・・
そう自分に言い聞かせた時だった。
左手の門の方、つまり道路側から誰かが歩いてくるのが見えたような気がした。
扉の開閉の隙間から、誰かがやってくるのが見えたような気がした。
白いぼや〜としたヒトのシルエットに見えた。
そう見えた。
一瞬である。
門から入ってきて玄関の前にそのヒトはあった・・・そう見えた。
ボクはあわてて扉を押さえ、不恰好なまま尻を拭き、すぐに外に出られる体制をとって扉を両手で押さえていた。
ヒトだったらカッコ悪いし。
強い街灯の光が木々の葉を揺らし、あたりを光と影の見難い状況を作り出している。
風が揺らす木々の音が騒音となり足音が聞こえない。
肝心の犬も吼えもしない。
玄関にいるという事は、オレ家の中に入れないジャン・・・
そんなことを思っていたような気がする。
実際そんな時空間にいる時は、彼女の話なんて思い出しもしない。
どう闘うか・・・
そういうことが渦巻くのか・・・。
その時家の中の明かりがついた。
すぐに玄関が開いて、旦那さんが出てきて言った。
陶ちゃん(違うけど)・・・便所か・・・
あ・・はい・・・もう出ます・・・
旦那さんも便所に起きて来たらしい・・・。
その場の固まった空気が崩れた。
白いヒトも何処かに行ってしまったようだ・・・。
すぐに便所を出て玄関を開け土間に入ると、旦那さんが煙草を吸っていた。
離れの便所は不便だろ〜
ははは、慣れなくて・・・おやすみなさい・・・
ボクは余計な事は言わなかった。
誰か来ませんでしたか?
なんて、あまりにも怖すぎるじゃないの。
心なしか土間の奥の片隅に白い塊がうずくまっている様な気がした。
NEXT
こはるちゃんHINTで思い出した話です。

0