ボクの家は小学校から5分とは離れていない場所にあった。
当時、朝一で学校に行き、職員室に下がっている教室の鍵を取り、長い廊下を歩き、教室の鍵を開けて一番乗りしていた。
それは母親が勤めに出てしまっていることと無関係ではなかった。
兄も同じように早く家を出た。
当時は集団登校などなく、別々に朝一登校をしていた。
それは冬の朝だった。
学校へ行くと、いつもはひっそりとしている学校の一箇所に人が大勢いた。よく見ると警察官だった。
それは兄の教室の辺りだった。
そこは校庭をはさんでボクたちの教室の斜め向かいにあった。
興味本位で校庭を突っ切ってその教室の前まで行ってみたが、何が起こったのかわからなかった。
記憶に無いのだが、担任の口からその話が出たのだろうか?
少しずつ登校してくる同じクラスの友達と、窓越しに不安な眼差しを送るだけだった・・・。
放課後、家に帰って来た兄が言った。
担任のW先生が死んでいたんだよ・・・教壇で倒れていたんだ
今日に限って2番だったんだよな・・・Nが来てたんだ
Nもオレも警察に呼ばれていろいろ聞かれたよ・・・
死んでいた?
それが何を意味するのかボクにはわからなかった。
しかし、やがてF先生が逮捕される事になって、ボク達の概念に、殺人事件、という遠いそして暗い言葉が急激に身近になって浸透してきた。
学校中がその話題で持ちきりだった。
何人か集まると、
F先生・・・イイ先生だったけどな・・・
本当なんだろうか・・・
そんな話で持ちきりだった。
だが、そこは小学生・・・
いつもどおりの校庭で遊び呆けるボク達の記憶から、その話題が次第に消えかかっていた。
時折、その教室のある方を見ると、心なしかどんよりと暗く重いものが覆っているような気がした。
その冬の放課後は、誰も遅く迄遊んでいる子供はいなくなった。
その年度も終わり、兄は中学へ、ボクは小4になった。
教師が死んでいた教室はそのまま使われていた。
六年の教室そのままだった。
職員室のある校舎から渡り廊下を上がった教室だ。
その渡り廊下の外側にトイレがある。当時は汲み取り便所だ。
その一角は、杉の木が覆いかぶさり、昼間でも暗かった。
時は春だ。
子供心にも、その陽気は心地の良いものだった。
だが、そんな春の日に、ある噂が立った。
それが学校中を震撼とさせるあの事件の始まりだった。
続く

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