これは三月はじめごろの話である。
そうこうして家に帰ってみるとM店長からFAXが入っていた。
それは発注書だった。
さっき投げ捨てたのとは違って、アイテムと数量がだいぶ増えていた。
そして、コメント欄にこうあった。
先ほどはすみませんでした。
私の考えが至りませんでした。
今後ともお付き合いのほど、よろしくお願いします。
三セクへの納品計画が消えた。
では、口を厚く造る問題はどうしてしまったのだろうか?
社長はこの件をどう考えているのか。
M店長の采配だったのだろうか?
その後納品に行くたびに、また電話での注文を口にするたびに、店長Mは侘び続けた。
ボクは釈然としないものを感じながらも、それに応えていった。
あの時のM店長の発言は撤回されたにしても、事実として残っているわけだからね。
お客様から指摘が・・・
あの時にM店長はこう言った。
社長が、陶ちゃん(違うけど)さんのは、口の薄さがポイントだし、今までお客様はそれで買われて行ったわけですから、今のままでお願いしたい、と申しておりました。
そんな連絡もあった。
社長も女社長だ。
ひまつりで近くだったし、会期中に社長に会ってもそんな話は出なかった。
発注書を投げつけて
オマエとの取引しない!
と、不遜なまでに言い放ったんだからね。
ボクが経営者だったら、意地でも発注しないと思うのだが・・・。
しかし、お客様から名指し注文があれば、お店もそれを注文してくるしかないのだ。
また、社長はそれを些細なこととして報告を受けているのかとも思った。
いずれにしてもまた取引が何事もなかったかのように始まった。
M店長の態度だけがぎこちなかった。
ボクの顔を見ると少し引きつるような感じに見えた。
そうして、「すみませんでした」を繰り返すのだった。
先日、益子の大手店舗から商品を取りに来た。
ここもお世話になっているお店だ。
最近注文があまり来なくなっている店だ。
聞いてみた。
調子どう〜よ?
あまりよくないですね・・・
最近注文少ないけど在庫残ってるの?
今は、作家さんも増えて取引の予算が決められているんです・・・
一人に30個なんてないんです・・・陶ちゃん(違うけど)のような人は稀ですよ
じゃぁ、これが月に千個売れるとわかっていても、発注しないと言う事なんだ
お店の人間は頷いた。
スペースもある。作家も多い。全部陳列できない・・・。売り上げも減少。だが目新しいものをおかなければ客が逃げる・・・
そんな繰り返しなのだろうか?
作家の売れ筋のみを扱う・・・
作家を大事にしない・・・
つまり、不景気・・・。貧すれば鈍する・・・。
そう結論付けられるのか?
不意にM店長の事が脳裏をよぎった。
その日に午後の納品があった。先週の土曜日のことである。
お店に行くと、M店長がいた。
あっ!陶ちゃん(違うけど)・・・こんにちは!
在庫あったんですか・・・
もうないと思って・・・
Mっちーのためにキープしておいたんだよ、当然ジャン!
また軽口だ。
土曜日でお客様が結構入っていた。
納品を済ませると、ボクは人目を気にせずに、M店長に右手を差し出した。
なんですか〜?
仲直り・・・
この前は、オレも言い過ぎてゴメンネ!
これからもよろしくお願いします。
いいえこちらこそ・・・すみませんでした
またよろしくお願いします
そう言って彼女は吸い寄せられるように、思わず手を差し出してボクの手を握った。
ははっ、引っかかっちゃた?
手を握りたかったんだよ〜
も〜陶ちゃん(違うけど)相変わらずなんだから〜
手を振り解いた右手でボクの肩を叩いた。
彼女の目が潤んでいた。
心のわだかまりが溶けてゆくようだった。
お客様がこちらを見ている・・・。
二ヶ月のバトルが終わったのだと思った。

0