グルだ。
T町で独立してすぐに大家のば〜ちゃんの弟から貰った。
鼠が凄かったから頼んでいた。
生まれたら貰ってきてやる・・・。
それがこの雄猫だ。
気が強いが人懐っこい猫だった。
例の事件の頃だろう・・・グルと名づけた。
尊大でいいじゃないか。
当時は二階に住んでいた。
階段の窓を少し開けておく。
グルの出入りようだ。
ボクはプレハブのロクロ場で仕事をしているので、グルがロクロ場から出て行った時に何をしているのか分らない。
昼になって二階へ上がる・・・。
グルの様子が変だ。
ボクの方を見るような見ないような・・・。
変な感じ?
台所のグルの餌の器はボクの抹茶碗だった。
そこはカーテンで隠れている。
グルはそちらの方とボクを交互に見て恥ずかしそうな(感じ)顔をしている。
その瞬間だった。
カーテンが翻ったかと思うと縞のグレーの雌猫(たぶん)が飛び出して来て、開けてある窓から猛ダッシュで外に出て行った。
自分の餌をナンパした彼女に食べさせていたのだった。
グルはというと、その後を追うわけでもなく、ボクの側に来て、何事もなかったかのように、ナ〜ォ・・・と鳴いて座った。
その顔にはこう書いてあった・・・。
・・・ナニカ?
グルはだいたいロクロ場のソファで寝ていた。
ある冬に、ボクは打ち合わせがあり、深夜に帰ってきた。
雪が降り出していた。
グルがいなかった。
なんだよ〜窓閉められないじゃ〜ん・・・
まったく・・・
窓を少し開けたままで寝た。
雪の風が入り込み、部屋は寒かった。
朝になってもグルは帰ってこなかった。
家の周り、池の周り、林の方を探した。何処にもいなかった。
家に戻り、少し遅い朝食を摂ろうと台所に行こうとした時、グルのか細い鳴き声がした。
コタツの布団をめくって見ると、グルがうずくまっていた。
コタツのスイッチを入れる。
グルは血まみれだった。
あわてて車に乗せ、駅の近くの獣医に行った。
車にハネラレタんですね
膀胱の炎症です・・・。
普通は膀胱破裂して死ぬんですけど・・・
少し太めの獣医はそう言った。
血尿が出ていた。
ギリギリだった。
それから付きっ切りだった。
もう、外に出るからトイレ砂はなかったけれど、トイレを作り時間的にグルを抱いてトイレに連れて行った。
1週間は何も食べなかった。次第に、水を飲み、缶詰を食べるようになって来た。
元通りになるのには2〜3週間が必要だった。
雪の日にボクは少し呑んで車で帰ってきた。
庭に車を入れた時、ヘッドライトに輝く降りしきる雪の中を一瞬、猫が通り過ぎたような気がした。
オレが・・・ぶつけたのか?
グルはなかなか帰ってこないボクを出迎えに来たのか・・・?
グルは・・・ボクを恨んではいないのか?
コタツにうずくまって寒さと、傷の痛みに耐え、ボクに発見されるのを待っていた姿に涙がこぼれた。
オレがやったんじゃないか・・・。
グル・・・三年目の頃だろうか?
先の弟子が来る前の年だったか・・・。
大家のばーちゃんが朝一で来て言った。
隣のKちゃん所のサイロにグルが落ちてる気がするんだけど・・・
行ってみろ〜
Kちゃんは壮絶な死に方をしたKちゃんである。
牛を飼っていた。
行って見ると、サイロの上に、ボロボロに錆びたトタンが掛けてある。
そこを踏み外して、中でもがいているのかな?そう思った。
錆びたトタンを開けて見ると、底には水が溜まっていた。
グルと、グレーの縞模様の雌猫が二匹並んで浮いていた。
Kちゃん、グル・・・猫、引き上げたいんだけど・・・
待ってろ、搾乳しちゃうから
このままにしておけねぇだろ〜よ!
腹が立ってきて声を荒げた。
Kちゃんは慌てて棒の先に鉤状のものをワイヤーで造り、二匹を上げた。
ボクは一輪車に二匹を乗せ、ロクロ場の前の木の下に穴を掘り、グルと彼女を並べて埋めた。
二階からは遠くが見渡せた。
ある家の庭からグルが出て来るのが見える。
なにやってんだ、アイツは・・・
人の家でメシか?オレそっくりじゃない・・・ナンパも・・・
グル〜〜
大声で呼ぶと、グルは顔を上げ、ものすごいスピードで走ってきて階段を駆け上がり、凄いターンとジャンプで窓から戻って来て、ナ〜ォと鳴いてボクの側に座る。
そう、何事もなかったかのように・・・。
この世界でやっていけるのかどうか・・・そんな時にグルと暮らしていた。
思い出は尽きない。
今でもボクの心の中にグルは生き続けているのだ。
グル・・・一緒に行こうな、海へ・・・@用心棒

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