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第2話 逆転ブレンド(22)
「では証人。名前と職業を……」
格好つけて言う御剣だが、証人から予想外の抵抗を受けることになる。
「職業……だと!この草臥れ果てた老いぼれに、まだ働けと言うのか!」
御剣に向かって激しく豆をぶつける元気な証人。
「お、落ち着いていただきたいッ!」
相変わらず、御剣は証人から名前と職業を聞くのが苦手のようだ。
「フン。……五十嵐将兵、今は老いぼれ果て棺桶に片足をツッコミながら、年金と子供たちからの仕送りで細々と暮らしておる。……文句あるか!」
なぜ、この人物がここにいるのか。それさえも分からないが、とにかく、彼はかつてマコが容疑者になった吐麗美庵の事件でも証人として法廷に立った人物だ。重要な証人だったのかどうかは今もよく分からない。とにかく、豆の印象がとても強いオジサンだ。
(オジサン……相変わらず元気だなぁ……)
御剣は何事もなかったかのように言う。
「証人は事件が起きた時、客として店内にいた。彼は遠いカウンター席から事件を目撃したのだ。上面図にその席を示そう。……そのため、コーヒーに触れるチャンスはなかったと考えていい。そして、彼が証明するのは、もう一人の証人……ウェイトレスの潔白だ」
証拠品・現場上面図を法廷記録にファイルしました。
その時、オジサンは言った。
「あの女給さんが真っ白だと証言しろと……!?そんなことはできん!」
「な……なんだとッ」
予想外の発言にのけ反る御剣。
「あのエプロンはどう見ても茶色じゃないか!ブラウスだって真っ白じゃない!白地にチェックのガラが入っておる!よく見ると、ピンクのワンポイントも入っておるぞ!」
御剣は勢いよく机を叩いた。
「……証人!ウェイトレスの服装の話ではない!彼女がコーヒーに毒を入れていない……そのことを証言していただきたいのだ!」
「そう言うことかい。……あらよっと、任せとけ!」
そう言い、オジサンは諸肌脱いで身を乗り出す。
(やっぱり、大変そうだなぁ……)
これからの尋問を想像すると、早くもうんざりとしてくる成歩堂。御剣はこの証人とは初めてだろう。これからどんな苦労が待ち受けているのかなど知りもせず、いつも通りに振る舞う。
「話は順を追っていった方がよい。それでは、まずは証人があの時店にいた経緯について話していただこう」
証言・現場にいた理由
あの店にいた理由……そんなの、コーシーを飲むために決まっておる!
あの店のコーシーは豆が違う!入れ方も違う!絶品なのだ!
それでいて値段も良心的……ワシは毎日通っておる!
「それでは弁護人、しめやかに尋問をお願いしますぞ」
成歩堂は思う。
(しめやかに……この証人にそれは無理だと思うけど……)
とにかく、オジサンへの尋問が始まった。
つづく

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