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第2話 逆転ブレンド(118)
御剣が次の手を考えている中、中、成歩堂にも一つ気になる点があった。
「被害者は店外で待ち受けているかも知れない証人を警戒し、店を出ることは出来なかった。無銭飲食を企てたという自分の立場のこともあり、助けも求めにくい状況だった……。今までの証言からはそう推測できます。しかし、一つ腑に落ちない点があるんです。それは被害者が携帯電話を持っていたと言うことです。トイレから出たあと、携帯電話を使用する被害者の姿が目撃されているので、その時点で所持していたことは間違いありません。しかしそれなら、その携帯電話を使って助けを呼ぶことも出来たのでは?」
御剣は少し考えてから言う。
「……被害者は、助けを求めていたようだな」
「……会話の内容、ですか」
成歩堂は顎をさすりながら言う。オジサンの証言書にある、証言内容だ。“まだ来ないのか”と言うようなことを言っていたとか。
「うム。被害者は助けを求め、その人物が来るのを待っていたのではないだろうか?」
御剣の言葉に裁判官は頷く。
「……確かに、そう取ることもできる会話だったようです。その点については問題ないでしょう」
「待ってください!それならば、なぜ誰も助けに来なかったのでしょうか!」
成歩堂がそう言った時、携帯電話の話になってから急に不安そうなそぶりを見せていたミラが発言した。ミラは被害者が携帯電話で何を話していたのかを知らないようだ。不安になるのも当然だろう。
「きっと……鏡一さんの人望のせいだと思いますよ。助けを求めても、それが冗談だと思われたんでしょう。あの人らしい話です」
どうやら、話が自分にとって一番都合のいい答えで纏まりかかっているところで、後押ししようという魂胆らしい。そして、このミラの意見を否定するような材料も特に見あたらない。
「どうやらこの点も納得の出来る結論に辿り着いたようです」
(ううん。この証人の言ってることは嘘っぱちに決まってる……!でも、証拠が出そろってから考えられた嘘だけに、なかなか付け入る隙がないな。しかし、事実に反することを無理に繋ぎ合わせれば、必ず矛盾が現れる……!細かい話を少しずつ聞き出している御剣も、それを狙っているのかも知れない。注意深く証言を聞かなければ!)
「……証人!最後に残された謎は、被害者がトイレに行ったあと、持っていたバッグが無くなった事について……だ。被害者が店にショルダーバッグを持ってきていた事は、昨日の常連客の証言、そして先刻の証人の発言により揺らぎ無いだろう。だがそのショルダーバッグは、とある時点……被害者がトイレに入った時を境に消え失せている。目の前でトイレの窓から出されたという証人の主張を信じれば、持ち去ることが出来たのは証人だけと言える。被害者のバッグはどのように持ち去られ、どうなったのか。証言していただこう」
証言を促す御剣の言葉を聞いて成歩堂は思う。
(……思えば、こんな聞き方したら自分が持ち去ったって言うしかないよな……。……でも、一番納得のいく答えなのは確かだからなぁ……)
そして、ミラはその誘導の通りの証言をし始めた。
証言・バッグの行方
鏡一さんは先に窓からバッグを投げました。
そのあと、私を見て店内に戻りましたが、
バッグはそのままだったので私が持ち去りました。
その後、ゴミと一緒に捨てました。
(特に問題があるような証言だとは思えないなあ……。とにかく、詳しく話を聞いてみるか。問いつめて、矛盾を生み出すんだ!)
つづく

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