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第3話 あるまじき逆転(110)
尋問・あるまじき最後の晩酌
「
相棒からの呼び出しは、実は急いではいなかったのです」
そんな言い訳は通じるものか。王泥喜はすかさずゆさぶりを入れる。
「待った!ですが証人がチャラン氏にメールには急げと書いてありました!」
バランは動じない。このツッコミも想定の範囲内と言ったところか。
「いみじくもそこには思惑があるのですよ」
「思惑……ですか?」
バランはびしっとポーズを決めて言い放つ。
「思惑をわくわくしながら聞きなさいっ!」
「
連絡があったとき、チャランは風呂に」
確かにその通りだ。だが、一つ気になることがある。
「待った!それをどうやって知ったんですか!」
バランは平然とした顔で答える。
「晩酌をしてたら隣の部屋でドアの閉まる音がしたのですよ。だからわかったのです。今まさに、風呂に行ったのだと!」
まあ、そんなところだろうか。だが、まだまだ王泥喜は納得しない。さらに気になる点について質問をぶつけた。
「チャランさんは、エッチなDVDを見ていたので入浴の時間が遅れていました。いつもならば、出てきているくらいの時間だったんです。証人!あなたは彼が風呂から戻ってきたのだとは思わなかったんですか!」
ドアの音だけでは部屋から出たのか入ったのかを断言するには弱いはずだ。
「笑止!隣の部屋からはずっとテレビの音がしていました。……つまり!風呂になど行っていないのは明らか!」
さすがに手強い。王泥喜は次の手を考えようとした。だが。
「ねえ。熱く議論してるとこ悪いんだけどさ。それ、そんなに重要かい?」
牙琉が水を差す。王泥喜は自分に問いかけてみた。この問答はさらに続けるべきか、他の手を考えるべきなのか……?
オレの答えを示すんだ!
・とても重要だと思う
・とても重要だと思えない
王泥喜の胆は決まった。大きく一つ頷き、堂々と言い放つ。
「……わりとどうでもいいですかね」
「なんと。どうでもよかったのですか。あるまじき……あるまじき……」
バランは帽子を目深にかぶりなおした。牙琉検事は爽やかに笑う。
「そう、今重要なのは証人の行動さ」
裁判長も深く頷いた。
「そうですな。証人!証言を続けてください!」
つづく

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