久遠の青春 スピンオフ 路傍の雛罌粟のように
06.はじまりの終わり(1)
さすがは一番昼が短い時期だ。もう日が傾き始めている。天気も下り坂で風も冷たくなってきた。真面目に練習していれば体ももう少し温まっているのだろうが後半は口ばかりが動いていて、なぜか体が温まっているのは長沢さんくらいのもの。
こんな中途半端な感じだが、練習はお開きにすることになった。練習としてはこんな感じだが、半分デートであるならこんなもんだ。
そして、ふと思い出す。女子部室には女子部員たちと男子二名が籠もったままだ。今この中はどうなっているのだろうか。男の方も変なことになるような顔ぶれじゃないが、ある意味変なことにしかならない顔ぶれでもある。心配である。これからそんなところで着替えないといけない長沢さんが。いや、さすがにそうなったら男はつまみ出されるはずだけど。
長沢さんと竹川さんが部室に入っていくと、早速そして案の定男たちがつまみ出されてくる。
話によればこれまで部室の中で、連城は話を聞くまでもなく女子に化粧をしまくり、鴨田先輩はそんな化粧した女子がめいめいに撮った写真をひたすら整理させられていた。鴨田先輩はそのために呼ばれたようだ。
「化粧が終わったら俺はもう用済みだろ。なんで帰してくれないんだろ」
気まずいだけで手持ちぶさたなひとときを過ごす羽目になった連城が言う。
「お前が帰ったら俺はあの中に一人残されるんだぞ。つれないこと言うなよな」
連城がそこに居るだけで救われる、女子に囲まれる状況をハーレム状態だと言って喜べない鴨田先輩もいたのだ。無意味なことなど何も無い。きっと、連城はその為に残されていたのだろう。他に男がいないと鴨田先輩、逃げるかも知れないし。
と、思っていると。女子が長沢さんと竹川さんのお化粧直しのために連城を呼び戻した。ああ、残されてたのはこのためだったか。外で待たせると連城の奴、逃げるかも知れないし。
連城が入れるなら俺たちも入れるだろ、と吉田が女子の部室を覗き込んだ。すんなり入室許可が出て入っていくので俺もそれに続く。
「……なにやってんすか、先輩。行きますよ」
「え。俺もかよ」
鴨田先輩に声をかけると狼狽えだした。
「お、お前らはその、連れが居るからアレだが。俺はその」
「女子部室の前でカメラ持ったまま一人で立ってるつもりっすか」
「あうあっ。それはまずいっ。これはヤバいっ」
鴨田先輩はいそいそと俺についてきた。カメラを仕舞うとか、ここを去るという選択肢はなかったようである。

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