三回目の今回はやっと実用的な話をする。
オーケストラの練習で、例えば快適な(人に寄っては暑い、寒いとあるかもしれない)温度に保たれた室内での練習なら問題は少ないかもしれない。
だが、中途半端なホール、特に照明がどぎつい舞台等で演奏をする場合、真冬でもしばしば汗ばみハンカチが手放せ無くなることがある。
この状況は非常にまずい。なぜならその暑さで弦楽器はピッチが下がり、管楽器は上がる。つまりそこに望まぬ音程が生まれ、度々不快な、人に寄っては我慢が出来ぬほどの不協和音の原因となる。
逆に、ある曲とある曲の間で演奏メンバーが変わり、その時に何も考慮していない管楽器奏者が新しく入ろうものなら、その管楽器奏者はキンキンに冷えた(ある程度息を吹き込んであろうが)楽器による自分のピッチの低さに驚き、『何故こんなことに!』と自分の立場を呪う事だろう。(自分は恥ずかしながら何度か経験した)
だいたいメンバーが変わる際にはその都度チューニングの時間が設けられるが、これが無いことがある。
あるはずだ、とたかをくくって挑もうものなら自分の二の舞になるので避けられたい。
これは自分の考え次第でなんとかなる。
恐ろしいのは、『演奏中にピッチのズレが生じてくること』である。
長いシンフォニィの楽章の合間にチューニングをするわけにもいかず、多くの場合楽章ごとに、始めに音を奏する楽器の人間が深い不安にかられる。
パバーヌのホルンだとか展覧会、ドボルジャーク八番のトランペットだとかいう場合は、その音ががその曲のピッチを支配するため、恐ろしい。
他者のピッチを聞いた後に予想して音を出さねばならぬ場合もある
チャイコフスキー五番、ティルオイレンのホルンだとか悲愴のファゴットだとかがその部類である。
究極はピアノやハープなどのピッチが操作出来ない楽器が先に出る場合だろう。カリンニコフだとかボロディン、ラベル、ラフマニノフのピアコンときたらもう地獄だ。
ハープとホルンのピッチがはちゃめちゃな花のワルツは色々な意味で悲しい。勿論非常に難しい。
一番対処に困るのはメロディとハーモニーのピッチがそれぞれ違う。つまり調和した群落が複数生じてしまう事だ。
ホルンが延々とハーモニーを守っているなか、(色々な意味で)あつくなったバイオリンが高くなっていく事も珍しくない
最終的には弦楽器に合わせる事が懸命だろう。彼等は演奏中にペグを回したりしない。ピアノ等に至っては言うに及ばない。
名著『ホルニストという仕事』には、調和ピッチの群落に挟まれた場合、程よくビブラートをかける、という方法が示されているが、それ以前に弦楽器、若しくはそれに準ずる規準楽器に合わせる事が得策だと考える。
結論は『自らに固執し過ぎないこと』だろう。

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