私はしがない音楽家であるが、自らを三流だとは思わないようにしている。
私を慕い、後に続いてくれる若い音楽家がいるからである。
もし私が自分を卑下しようものなら、未来ある彼彼女らの自我に影響を及ぼすと考える。
私は今ある状況に満足せず、自分を高みに上らせることを信念としている。
自らのレベルを向上させるには、自分よりレベルが高い人と付き合う事が非常に高い効果をもたらす。
私は今までに多くの高名な音楽家と共演してきた。
今回はその偉大な方々を紹介するとともに、それがいかに自己のレベルの向上を助けたかを説きたい。
私が音楽を志してから初めて出合った職業音楽家は、私のホルンの最大の師、近藤敬氏である。
最初に出会った氏とはもう長い付き合いをさせていただいている。
そもそもの初めての出会いは高校時代のレッスンであったが、陳腐な経験と技量しか無かった私でも分かる高い音楽性に自分は感激した。
以来の関係であり、門下生となった今でも母校への送迎をやらさせていただいている。
氏は長年の首席生活にピリオドをうち、後進の育成に多大な労力を割いておられる。
こんなエピソードがある。
高校生の時分、初めて出合いレッスンを受けた氏に私はレッスンに対する謝礼をお渡ししようとした。
すると氏はこう口にした
『そのお金でホルンのCDを買いなさい。沢山聴いて沢山勉強して、そしてまた次のレッスンで会いましょう』
氏がいかにホルンを学ぶ奏者、音楽への慈愛に満ちているかが伺い知れるエピソードである。
氏のレッスンは自宅で行われる。
壁に丸太を張り付け、山あいの小屋の中を思わせる牧歌的な雰囲気漂う部屋である。
私は初めてのレッスンにモーツァルトの三番を用いた。たっぷりの練習と本番を重ねた馴染みの曲であった。
しかし氏は
『君は本当にホルン吹きかい?』
とだけ口にし、至る所に、手直しする部分が無いほどの口添えをしていただいた。
生半可な口出しなら反論のしようがあるが、一切出来ない、一点の曇りも無い指摘だった。
一時間、二時間…半日を超えてもずっと納得のいくまで付き合っていただいた。
初めてのレッスンで、私は一生を約束させられたようなものである。それだけ大きな感銘を受けた。
氏の他にも多くの高名な音楽家と共演をさせていただいた。
NHK交響楽団コンサートマスターの堀正文氏、ミラノ・スカラ座音楽監督のマエストロ・フェッツラーリ氏、近いところなら名古屋フィルハーモニーのマエストロ・武藤氏、フランス国立管弦楽団のホルニスト・ミッシェル氏…指揮者、ピアニスト、ヴァイオリニスト、その他、とまとめるには恐縮過ぎるほどの方々と共に音楽を奏でた私はその度に非常に多くの音楽を学んだものである。
いつか、それぞれの方々との関わりにより得られた音楽感について述べたい。

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