2008/2/28

消せぬ過去 「チャイナタウン」  映画

1974年 米 ロマン・ポランスキー監督

クリックすると元のサイズで表示します 映画史に残る名ポスター

ロマン・ポランスキーといえば、「戦場のピアニスト」で鮮やかに健在ぶりを証明し、今後もまだまだ現役で気になる作品を撮りそうな監督だが、この人の人生はまさに波乱万丈伝。ユダヤ系ポーランド人としてナチに追われる逃亡生活を経験しており、戦後、長じて映画監督になってからは、二度目の妻・シャロン・テートをチャールズ・マンソンに自宅で惨殺されてしまう。かと思うと被害者一辺倒ではなく、少女モデルをレイプしたかどで実刑50年を食らっており、保釈中に逃亡したので、アカデミー賞を貰ってもアメリカに授与式で戻ってくるわけにはいかないお尋ね者でもあったりする。一歩アメリカ領内に入ったら、三浦サンのように即逮捕されちゃうので、二度と戻ってくるわけにはいかないのだ。

  〜以下、たたみます〜


そのお尋ね者が撮った傑作ハードボイルドロマンがこの「チャイナタウン」。(この時はまだお尋ね者ではない)ワタシは1930〜40年代の時代の空気と、その中で活躍する、自分のルールを唯一の身上に生きる私立探偵を主人公にした探偵物が妙に好きだ。代表格は前からしつこいほど書いているレイモンド・チャンドラーの「フィリップ・マーロウ」であるが、その他ダシール・ハメットの生み出した探偵サム・スペード(「マルタの鷹」)も捨てがたく良い。原作も大昔に一度読んだが「マルタの鷹」はあまりにも有名なハンフリー・ボガート主演の映画があり、金にがめつく、計算づくで、自分の利害のためには共に事務所を開いた相棒さえ裏切ることも辞さない男ながら、悪女に惚れ、お宝の在り処の鍵を握るマルタの鷹を巡ってその女に振り回され、だまされながらも、最後には相棒を殺したその女を警察に引き渡すのだ。その前に男を誘惑して散々色仕掛けにかけ、逃がしてくれと言う女に向かって、サム・スペードが「俺が今ここでウンと言わないのは、もうどうなってもいいからウンと言ってしまいたくて堪らないからだ」というやせ我慢のセリフは有名。男はやせ我慢してナンボだと思っているフシがどこかにあるワタシは、こういう決めゼリフが大好きである。これをボギーが早口で言うのだけど、ぶっきらぼうに投げ出される決めゼリフはボギーの真骨頂だ。

クリックすると元のサイズで表示します マルタの鷹

で、今回は「マルタの鷹」じゃなしに「チャイナタウン」なのだが、「チャイナタウン」は70年代の作品ながら、こうした過去のハードボイルドの傑作の空気感をよく継承している。その上に独特の味わいがあるのだが、その点でR・ミッチャムのマーロウ物「さらば愛しき女(ひと)よ」と双璧を成す作品でもある。画面のムードも似ている。作品のもつ雰囲気が非常に近いというだけでなく、映画としての出来も甲乙つけがたい。
チャイナタウンはミュッシャ・スタイルを踏襲したアールヌーボー風のポスター画も有名で、とにかく衣装や美術も出来のいい映画だった。おまけに主役の探偵ジェイク・ギテスには若かりし日のジャック・ニコルソンですよ。すでにして毛は逝き始めているが、若くて細身でなかなか男前である。Wのスーツとソフト帽が実によく似合っている。シーンにより、紺のストライプのスーツにはダークな帽子、オフホワイトのスーツには同色の帽子、ベージュのスーツにはこれまた同色の帽子と実にニコルソンの衣装もお洒落だ。ネクタイとスーツの取り合わせも見事。30年代の探偵的ダンディズムを遺憾なく発揮している。

クリックすると元のサイズで表示します ソフトが決まっている J・ニコルソン

対する謎を持つ人妻イヴリン・モウレーに70年代のヒロイン、フェイ・ダナウェイ。美人じゃないのだがムードは抜群で、重い秘密を抱える人妻をミステリアスに演じている。
70年代はフェイ・ダナウェイの時代、(J・フォンダもいたけど、フェイ・ダナウェイの全盛期というイメージが強い)80年代はやはりメリル・ストリープの全盛期であろう。90年代のヒロインて誰という事になるのかな。メグちゃん?ちと小粒か。そして00年代は誰になるのであろうか。興味深い。

クリックすると元のサイズで表示します フェイ・ダナウェイ

フェイ・ダナウェイはアメリカン・ニューシネマの申し子で、向こうの人にしては鼻が低い。独特の風貌で、後年の女優でいささか似ている人というと、ダイアン・レインあたりになるかもしれない。
この作品ではディートリッヒ風に眉を剃った細い描き眉が目の上でアーチになっている。
ネットつきの帽子を被り、バッグからおもむろに大きめのシガレットケースを出して、震える指先で火をつけるフェイ・ダナウェイのタバコ姿のサマになっていること。ワタシはこういう風に、さりげにバッグからシガレットケースを出してパチンと開き、トントンとやって空気を抜いて、女持ちの細身の金のライターで火をつけたりする仕草がキマる女になりたかったのだった。シガレットケースを持ち歩いて不足のない年になる頃にはタバコを止めてしまったので、それはワタシの永遠の憧れになった。

さて。チャイナタウン。お話のあらすじはというと
1937年のロサンゼルス。私立探偵ジェイク・ギテスはモウレ−夫人からダム建設技師である夫の浮気調査を依頼される。だが、盗み取りした写真がなぜか新聞に掲載され、それを見たもうひとりのモウレ−夫人が現れる。実は彼女こそ本物で、名をイヴリンという。ジェイクはこれがダム建設をめぐる疑惑と関係ありと睨んで調査を開始するが、モウレ−は溺死体で発見され、ジェイクもまた謎の男たちに暴行を受ける。探偵と依頼人という関係を越えはじめたイヴリンとジェイクだったが、なおも謎は深まるばかりだった……。(all cinema onlineより)

この作品を観ているとなんだか「マルタの鷹」を思い出すのは、やはりポランスキーがダシール・ハメットへのオマージュという気持ちもあって撮った作品だという事が大きいのだろう。なにせ「マルタの鷹」を撮ったジョン・ヒューストンが俳優として、鍵を握る重要な人物役で登場するのだ。塩辛声で飄々とフェイ・ダナウェイ演じるイヴリンの父ノア・クロスを演じている。土地の名士で大金持ちの実力者だが、煮ても焼いても食えない爺さんだ。人を食った雰囲気はさすがJ・ヒューストン。それでいて、初登場シーンでは観客に不快な印象を与えない。パっと見に憎々しいという感じがしないからだ。彼が絶対にギテスの名前を覚えようとせず、毎度「ギッツ君」と呼びかけるのも人を食っている。

クリックすると元のサイズで表示します J・ヒューストン

映画全体に30年代のムードがよくしみていて、ジャック・ニコルソン、胡散臭さと伊達さのまざり加減がいい具合。単なる浮気調査だった筈が、背後に隠された陰謀と、一人の女の哀しい運命にどんどん巻き込まれて、その過程であれこれと痛い目にも遭う探偵がハマっている。
前から思っていたのだけど、J・ニコルソンは眉毛の形と角度がA・ドロンと似ている。
他はどこも似てないが、眉だけものすごく似ているのだ。
ね? なんとなしに眉山のあたりが似てましょ?

クリックすると元のサイズで表示しますクリックすると元のサイズで表示します

この作品では、ニコルソンのギテスはとにかく受難につぐ受難である。大水を浴びせられたり、ナイフで鼻を切られたり。たださえ薄い髪が、水をかけられたり、殴られ、地面に倒れて土ぼこりにまみれたりと、貴重な頭髪も受難気味だ。ダムの謎に迫るギテスの鼻を切る、アブない小男の用心棒役でロマン・ポランスキー自身が出ているのは有名。アブない感じがよく出ていた。唇をほとんど動かさずにしゃべる様子など、さすが監督だけに、自分の演技もいう事なしである。

クリックすると元のサイズで表示します 危険なチビっ子 ポランスキー


イヴリン・モウレーの屋敷の執事は中国人で、その庭には日本人らしき庭師がいたりするのもロスの雰囲気が出ている。この中国人の執事が生意気でギテスを見下している様子が面白い。
強い、乾いた日差しの中で、白い壁の、南欧風の家が目立つロサンゼルスの住宅地。
椰子の木とほこりっぽい空気とオレンジの実。
乾いている。何もかも。そしてダムの水を人々は使えない…。

命がけでダム建設の背後にある陰謀に取り組むギテスと、秘密を抱えた人妻イヴリンはなるべくしてそういう関係になるのだが、寝物語に過去を聞かれたギテスが「話したくない…疲れた。チャイナタウン、あそこで働くと皆そうなる。どうなるか先が読めないのさ」と言う。
チャイナタウンは過去としてポツリと語られるだけで、画面に登場するのは、最後の最後にそこの通りが映るだけである。が、チャイナタウンはギテスの人生に深く暗い影を落としている。
それは単に危険なだけでなく、混沌と謎と消せぬ過去の象徴なのである。
“チャイナタウン”とは、そういう場所の代名詞なのかもしれない。

イヴリンの夫モウレーは何故殺されたのか、イヴリンは何を知り、何を隠しているのか、
事件の背後にあるものは一体何か。そしてイヴリンの秘密とは?

探偵モノの定石をきちんと踏みつつ、全編に溢れるノスタルジックなムードがさりげなく完璧。
総体にうっすらと黄色いフィルターをかけて撮っているのだろう。ロスの乾いた空気や、白い壁や、皮の椅子、オフホワイトの車などのトーンが印象的に統一され、全体的にベージュ色調という感じにまとめられている。

またハードボイルド・ロマンには物憂く情緒たっぷりなテーマ曲は欠かせないが、この作品でもジェリー・ゴールドスミスのムーディなスコアが素晴らしく、映画が始まるやいなや、観客をさーっとその作品世界に引き込んでいく。70年代に絶好調だったプロデューサー、ロバート・エヴァンズが製作に入っている。そういえば彼が落ちぶれて最低の時期にも、J・ニコルソンとD・ホフマンだけは変わらぬ友情を保ちつづけた事を「くたばれ!ハリウッド」を観て知った。
6



2008/2/29  7:25

投稿者:kiki

これはロバート・タウンのオリジナル脚本らしいです。よくできてますよね。
ニコルソンは基本的にけっこう男前なんだな、と改めて気づかせてくれる作品でもありますね。そうそう、鼻に情けなく大きなバンソーコーを貼っても、なんだかダンディズムは崩れないんですよ。「黄昏のチャイナタウン」はニコルソン自らが監督してるんですよね確か。問題アリでもポランスキーが監督としていかに才能があるかが分かるところかもしれません。
眉毛、似てるでしょ?ドロンとニコルソン。ひそかに眉毛ソックリさんなんですよ。うふふふ。

2008/2/28  19:41

投稿者:たむ

「チャイナタウン」のニコルソンはほんとにこのときが一番男前で、タフさと傷つきやすさのバランスもほどよく、飛びぬけて素敵です。画期的だったのは鼻にバンソーコーを貼ってもヒーローをやっていけるんだ、と納得させてくれたことです。これは原作があるんでしょうか、それともオリジナルの脚本なのかしら。実によく出来てますよね。
ニコルソン、「黄昏のチャイナタウン」で、年を重ねたギテスを演じてますが、これも悪くはなかったけど、ノスタルジアで作ったという域を出られなかったと思います。
ほんと、ほんと。ドロンの眉毛と似てます! 言われて気がつきました。


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