崖の下の行き止まりの道路にボク達三人が立っている。
一人は軽薄に笑ながら喋り続けている。
それも
不安の凝固作用なのだろう・・・区長とボクは黙っている。
ゆっくりした動作でパトカーから降りた警官がやって来る。
顔が紅潮しているように見えた。
トランクからゴム手袋の箱を出し、二人で装着している所に、若い鑑識二名がカメラを下げ歩いてきた。
彼らは明らかに顔が強張っていた。
こんな気持ちが湧き上がる。
慣れてる?
なんて
言わせないぞ・・・
車の前後からバシャバシャと撮影している。
運転席のドアを開ける。
免許証を見ている。
遺書があったようだ。
警官がやってきて発見者調書を書く、と言った。
もちろん丁寧に。
この後は司法解剖?
そうですね ○○医院が担当なんですよ〜
ローカルな話題だ。
静寂さに違和感を感じ、崖の上を見上げると、野次馬だった区の人間は誰一人いなかった。
走行する車の音だけが聞こえる。
ボクは杉木立の中に佇み、ただ成り行きを見ている。
自殺者の顔を見る気持ちは最初から無かった。
その記憶がもたらすものが、感情のやり場を失うかもしれないし、何らか哲学なりが湧いてくるような・・・そんな出来合いの感性が湧き上がるのが嫌だったからだ。
気の毒っていうか・・・
さっきの連中の言葉が蘇る。
死とは何だろう?
どうして彼は自死を選択せざるを得なかったのか?
ボクは車の後方に行き合掌した。
見ず知らずの彼の最期はこのような形で終焉したが、それも天寿ではなかったのだろうか?
車のウィンドウの結露がすっかりと取れて車内が見えている。
助手席が眩しい。
練炭を焚くためにだけに購入したバケツが輝いていた。
その消費行動中の心中・・・
銀色のバケツは目的を達成し、亡くなった主の隣でギラギラと乱反射していた。
それは無機質であるが故の光芒のような気がした。
「乱反射」了
新聞記事にも、お悔やみ欄にも掲載されませんでした。
翌日区長奥様よりの情報で、名前年齢判別。
まだ40歳だったそうです。
死者に憐れみを・・・

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