ウェブ上でグレッチのヴァイキングが販売されているのを、たまに見掛けるようになった。「近年評価が高まっている」等とあるがセールストークだろう。僕のキャプテン・フックは、人前に使える状態にするまでに二十万円ばかり要した。出来のいいギターではない。近年の国産のホワイトファルコンを買ったほうが絶対にいい。見映えもいい。
1964年製のこのギターの、いったいどれほどの部品を外し、換えねばならなかったか、ちょっと列挙する。
・ミュートシステムの排除――発泡ゴムが劣化していてきちんとミュートできなかったうえ、設置位置が悪く露骨に音程が変化した。
・トレモロユニットの交換――新品のビグスビィに。元々のユニットはボディ内部にスプリングが在り、即ち支点が多く、音程を保てる代物ではなかった。
・トグルスウィッチ類の交換――ぜんぶ駄目になっていた。
・チューニングペグの交換――最終的にゴトーのロック式に落ち着いた。
・フレットの交換と指板調整――シーズニング不足の材を使ったらしく波打っていた。
・ナットとブリッヂサドルの削り直し。
他、ボディの接着はあちこち外れていたし(タイトボンドで再接着)、弾けば大量のパーツががたがたと共振を起こし、ラッカー塗装は劣化していて持つたびに指紋が残る、本当に酷い代物だったのだ。
1964年は恐らくヴァイキングの発売年で、この段では単なるホワイトファルコンの色違い扱いだったと思しい(ボディ内部にバネが仕込まれたホワイトファルコンも見たことがあるような気がする――が、記憶違いかもしれない)。
翌年くらいから独自の残響機構が盛り込まれる。ブリッヂにあたる部分がボディ内の「音叉」の根元を兼ねた機構。アイデアとしては面白いが効果の程はどうだろう。特定の音程にのみ共振するギターって使い易いかな。
自分の楽器に話を戻す。べたべたになっていた塗装は時間をかけて研磨剤で磨きあげたが、しょせん軟化しているのでボディサイドにはズボンの布目が移る。ライヴで汗をかき、あとで見れば散った箇所だけ白濁している。
こうなってしまった塗装は、通常、上塗り(オーヴァラッカー)するほかない。金がかかる。楽器用の「硬質シリカファイバー」コーティング剤なる製品を思い出した。最初からこれを施し出荷している高級品もあるという。何々の皮膜が形成されて雨をはじき――という、テレビ通販されている車のコーティング剤があるでしょう。あの楽器版だ。コーティング剤の世界も群雄割拠で成分も様々なようだが、鍍金パーツの保護用にBlissという製品を買ってあった。いや本当は便器のため。余談だけれど、便器はいっぺん手を突込みぴかぴかに磨いてからコーティングしておくと、後の掃除が本当に楽ですよ。
改めて注意書きを見れば、遠慮がちに「塗装木質」とも書いてある。おお。ヴァイキングに試した。自力でここまで磨いた楽器だから元に戻っても構わんという心意気で試した次第で、真似をして困った事になったと聞いても同情できないけれど、ともかく結果を申せば良好である。艶が出た。水は弾くし、手の跡も布の一拭きで消える。色の暗い部分がかたとき白濁してぎくりとしたが、乾くと消えた。
作業から二週間ばかり経つのを待って、これを書いている。なんの問題も生じていない。だいぶ暑く、湿度も高い季節になったが、塗裝面はしっとりと美しく輝いて、相変わらず水を弾いてくれる。同じような言葉を繰り返すが、例えばオリジナル状態至上主義者が、オーヴァラッカーを避けようとしてこれを真似し、結果が悪かったとしても絶対に責任は負えないよ。僕は生きているうちに使い、使い潰すつもりの楽器しか持っていない。自分にとっての利便性しか考えていないし、死後の楽器の査定額がゼロで構わないのだ。どうせ見られない光景だし。

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