この時期に川下り業界で大きな事件が起こりました。早稲田大学の探検部がアマゾン川を下っている時に、軍隊に拘束され、殺されてしまったのです。これは大きな衝撃でした。これをきっかけに、現地語を相当マスターしないと「死ぬな」と思いました。現地のタイ人も「軍隊と警察が一番やばい」と言ってきます。軍隊や警察と交渉できるぐらいの語学力を獲得する、これが目標になりました。
チェンマイに語学留学し、先生と面談した時、「あなたのタイ語力は小学5年生。だから小学5年生の教科書を本屋に買いに行こう、そしてそれで勉強しよう」と言う話になりました。
チャオプラヤー川を始めてみてから2年半が経っていました。未だ1mも川を下っていません。僕は最大のピンチを迎えていました。語学の勉強がとっても面白くなってしまっていたのです。小学校5年生のタイ語能力というと、テレビのニュースを聞いて、内容をほぼ理解できる程度、そして女の子とデートしてもなんとか話のネタが尽きない程度ですが、これがまた楽しい。
ですが、先生と5年生の教科書を買いに行き、状況が大きく変わりました。2年間ずっと探していた地形図が、その書店にあったのです。バンコク中の本屋や大学図書館に行っても見つけることができなかったのに・・。
チェンマイはトレッキングが盛んなので、特別に5万分の1地形図が書店にあったのです。それを見つけた僕は歓喜しました。しかし、その地図に端っこに出版所が書いてありました。「国軍地理調査局」。軍隊が地図を扱っていたのです。
国軍地理調査局は、国防省の中にありました。そして、僕が欲しい川の地図は国境やダムなどの施設部を含み、なかなか買えないことがわかりました。ですが、「軍隊や警察と交渉する語学力」がここで力を発揮しました。手を替え品を替え、時に1年という長い交渉期間を使ったりして、ほぼ欲しい地形図を入手できました。
交渉とは本当にいろいろな方法があるんだなと知りました。その中から学んだことは今度、メコン川を下る時、特に商人や中国人(交渉相手としては最強)と交渉する時に役立ちました。
例えば「この地図は売れない」と言うんですよ。と言うことは、地図自体はあるわけだ。欲しい「もの」があって、それを持っている人がいて、欲しい人に手数があるなら絶対手に入る。これがアジアでした。
闘
いに終わりはありません。準備をさらに進める必要があります。ピーター・ピオット

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