その夜、社長Uから電話があった。
陶ちゃん(違うけど)・・・なんか、行き違いがあったようですね
行き違いじゃなくてね、なんで社長に納期を決められなきゃならないのよ?そんな取引して無いじゃん!
そうですか・・・
スミマセンでした
社長は低姿勢に言った。
今度の日曜日にお伺いします。
日曜日だ。
社長は一人でやって来た。
陶ちゃん、これ、前に言っていた酒屋さんのギャラリー・・・
見てくださいパンフレット。
そこの酒です。
そう言って酒瓶を出した。
長野の酒ですね。
長野・・・不味いんだよね・・・なんでですかね?水もいいし・・・
米ですかね?
貰っておいてそんなことを言った。
不遜なのである。
少し呑んじゃいますか・・・などと言いながら、昼から酒を呑みだした。
それは、甘くボクの口には合わなかった。
社長は笑いながら今後の事を打合せしたいと言った。
プレハブの工房は、夏の日差しが入り込み暑かったが、時折爽やかな風が吹き抜けた。
実は、陶ちゃんの作品は○○会という所に出しているんです。
そこから全国の酒屋さんに行くんです。
私の会社は、その辺のコーディネイト、あと、この前言ったギャラリーの企画などをやっているんです。
その時はボクは知らなかったのだけれど・・・○○会・・・それは大手だった。
陶ちゃんの酒器は、リーズナブルだし、口の造りも最高で・・・酒飲みの器・・・なんですよ。
今後とも宜しくお願いいたします。
ボクは少しずつ酔っていた。
この前の電話のことを詫びようかどうしようか迷っていた。
これからは、前もって納期の打合せを含んで発注しますね。
宜しくお願いいたします。
そんなことを話して社長は帰っていった。
ボクは少し酩酊しながらも、後悔していた。
いくら忙しいと言っても、取引先怒鳴るようじゃ・・・オレの先はなくなるかもな。
数日後に、社長から電話があった。
秋に、全国の業者向けの頒布会が京王であるんです。
それに間に合うように造っていただけますかね?
それは間近だった。
この前の昼の話はなんだったんだろう・・・?
ボクは思わず笑ってしまった。
業者とは・・・こういうものなのかな。
向こうのビジネスチャンスに合わせなければ、そのぐらいの度量、生産能力が無ければ、ダメなのかも知れないな・・・。
そう考えた。
つまり、お互いの意思の疎通が重要なんじゃないのか、と。
それでパンフレットを作りたいんだけど、陶ちゃん・・・なにか写真送って貰えませんか?
まだボクの環境にPC、メールなんて存在しない頃だ。
当時ボクはポラロイドカメラを持っていた。
即効で作品を撮影し、送ったりしていたからだ。
ポラロイドでいいですか?
勿論です。
宜しくお願いいたします。
いかにも、陶芸家という感じでお願いいたします。
そう言って二人で笑って電話を切った。
翌日、友人Oが遊びに来た。
そいつに相談した。
陶芸家らしいだってよ!
陶ちゃん、あれだ、バンダナでも頭に巻くか・・・!
それも真っ赤なペイズリーもやつ!
それ、オレのスタイルじゃね〜けどな
タオル巻いてる写真ツウ訳にもいかないしな
外に出て、工房の前で友人Oに、真っ赤なバンダナを頭に巻いてもらった。ボクはやった事が無かったからだ。
Oがポラロイドのシャッターを切った。
ジーカシャ・・・
写真が出てきてボクに渡した。
いつものクセでその写真を振り振り、画像が出てくるのを待った。
その日も暑い一日だった。
続く。
少し、心の交流が始まった社長Uさんとの意外な別れ・・・。
陶ちゃん・・・また、泣くのか?

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